ないしょのはなし
「神様、仏様、様~っ!」
「ダメです」
「まだなんも言ってねーじゃん」
「言わなくても分かるよ」
えー、と口を尖らせる米屋に、は呆れ顔で机に肘をついた。ちらりと視線を飛ばしたのは斜め後ろの席だ。今朝は防衛任務のために公休を取っている出水の席である。米屋がに手を合わせるのは、決まって出水に頼れない時なのだ。
「英語の宿題でしょ? 前にも見せたもん」
「うわバレてる」
苦笑する米屋にさほど堪えた様子はなく、前の席の椅子を勝手に引くと跨ぐように腰を下ろす。
「そこをなんとかさ~、ダメ? オレ今日は指されそうなんだよ」
「三輪に『陽介を甘やかすな』って言われたから、だーめ」
目尻を指で釣り上げながら三輪の口調を真似するに、米屋はぶっと吹き出した。
「なにそれ秀次の真似? 似てねー」
「あ、そういうこと言っちゃうんだ? ほーう?」
「……いやー、嘘だって、じょーだん。すーっげえ似てる。、ものまねの才能もあったんだな~」
「心がこもってなーい」
ふいっと顔を逸らすに、米屋はこっそりと口の端を吊り上げた。はじめから狙っていたわけではないけれど、「あれ」を出すなら今だと思ったのだ。
「まあまあさん、そう言わずに」
言いながら、米屋はの机にコンビニの袋をぽんと置いた。
「……なに?」
「見てみ」
米屋の得意気な笑顔に促されるように、は袋に手を伸ばした。中身の想像はつく。おおかた甘い物だろう。チョコとかキャンディとか、そんなものでわたしを買収できると思うなよ。眉を吊り上げて袋の中を覗き込むだったが――中身を見た途端に、その表情はぱっと明るく輝いた。
「シュークリーム、カスタードのやつが好きなんだろ? 前に出水に聞いた」
「これ、全部もらっていいの?」
「そりゃあもちろん。……で、どう?」
「…………」
大好きなシュークリームと英語のプリント一枚、どちらが重いかなんて――聞かれるまでもないことだ。
しかしこれで引き受ければ、三輪になにを言われるかわかったものではない。さらに出水の耳に入れば「まーた胃袋でもの考えやがって」などとからかわれることは目に見えている。はシュークリームと米屋を見比べて、それから再び斜め後ろに視線を投げる。英語の授業は四時間目。出水の防衛任務は午前中までだから、五時間目からは登校してくるだろう。――それなら。
「わたしが見せたって、絶対言わない?」
「おー、適当に他のヤツってことにしとく」
「自分でやったって言わないの?」
「そんなん、絶対バレるに決まってんじゃん」
確かにそうだ。英語の教科書を開くだけで眠そうな顔をする米屋だ。自分でやったと言って誰が信じるだろう。エイプリルフールは4月だぞ、なんて言われるのがオチである。
は机から英語のノートを取り出した。ぱらぱらと捲り、挟んでいたプリントを米屋に差し出す。
「……授業始まるまでに返してよね」
「あざーっす! ちゃちゃっと終わらすわ!」
嬉々として自分の席に戻っていく米屋を見送ってから、はさっそく貢物の証拠隠滅に取り掛かった。
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