チョコプレイ蔵王
チョコレートにまみれた指先で唇をつつけば、は観念したように吸い付いた。柔らかな唇と熱い舌が俺に触れて、そしてほんの一瞬で離れてしまう。の舌が削り取ったチョコレートは、第一関節の半分にも満たない。
まだ足りない。
視線だけで訴えれば、舌と同じ温度の溜息が指先を濡らした。
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バレンタインシチュ「一緒に食べよう」蔵王
正直に言えば、期待していた。
というか、バレンタインに期待しない男なんているわけがないのだ。モテない自分には関係ないと嘆くあいつも、企業戦略に踊らされているだけだと強がるあいつも、今年こそは、今日こそは、と心のどこかで祈っているに違いないのだから。
「これ、その、……い、いつも、お世話になってる、から」
絞り出すように言って、はかわいらしいデザインの紙袋を俺の胸元に押し付ける。そのまま逃げ出しそうな勢いに、とっさに手首を掴んだ。
「…………蔵王?」
赤く染まった顔が、困りきった様子でこちらを見上げる。じっとその目を見つめれば、の顔はさらに赤くなった。そんな顔をされたら、チョコに込められた気持ちまで期待しそうになる。
まだ一緒にいたいと、そのままに伝えるには俺たちの距離はまだ遠い。だからさりげなく、いつもの俺らしく笑ってみせるのだ。
「せっかくだしさ、一緒に食べようぜ」
それがただの口実だと、今は気付かないでほしい。ほっと息を吐いて頷くも、俺と同じ気持ちだったら良いのにと心の中でそっと願った。
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「好きって言ったらどうする」蔵王
「俺がお前のこと好きだって言ったら、どうする」
夕日に照らされた蔵王は、いつになく真剣な顔だった。心の奥底まで見抜こうとするような、必死でまっすぐな眼差しがそこにある。息を、呑む。私と蔵王の間を乾いた夕風が吹き抜けるのが、まるで映画のワンシーンのように思えた。
「なに、いって」
なんとかひねり出せたのは、困惑がそのままこぼれ落ちたような情けない声だけ。今にも冗談だと、いつものように笑ってほしい。そんな期待を裏切るように、蔵王はぎこちない笑みを作った。
「悪い、さっきの忘れて」
あからさまなほどに明るい声が、乾いた空気に響く。はやく帰ろうぜ。歩き出した蔵王の背中を、黙って追いかける。
決定的なことは何も起こらなかった。それでも私たちはきっと、もう昨日には戻れない。開いた数歩分の距離が、ひどく遠かった。
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顎クイする蔵王くん蔵王
蔵王の手が私の頬に伸びる。思わずびくりと体が震えた。ただでさえ早鐘を打っていた心臓がさらに速度を増していく。指先が輪郭をなぞるようにして顎の下へ降り、優しく持ち上げられた。抗うことなんて、出来るはずもない。自然と見上げたその先に、甘い色をたたえた瞳が私を見つめて微笑む。
「やっと、目が合ったな」
愛おしげなその表情に息が詰まって、ただ見つめ返すことしか出来なかった。
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140字SS「逃げるものは追うしかない」蔵王
そうやってあからさまにそっぽを向くのも、話をそらそうとするのも、真っ赤になって口ごもっちゃうのも可愛いんだけど。後退るの手首を掴んで引き寄せれば、どこか恨めしそうに睨まれる。
そんな顔で見つめたって、ダメなものはダメだ。俺から逃げようとするのだけは、いくら頼まれたって許してやらない。
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夢絵「2017ハロウィン」SS×3蔵王と
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「今夜、部屋の窓を開けておいて。会いに行くから」
さらりとウインクを飛ばして去っていった彼の言葉を、信じたわけではなかった。だからこれは、ただの気まぐれ。明日の朝、私は眠りについたときと変わらぬ窓辺を見つめながら、やはりあれは一日の夢だったのだと苦笑する。
──そう、思っていたのに。
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「約束、守ってくれたんだな」
振り向けば、彼は音もなく窓辺に立っていた。にこりと笑う表情は昼間と同じはずなのに、この薄明かりの中では不思議な陰影が落ちて、ひどく不気味に映る。
いいや、それだけではない。蝙蝠のように尖った耳と、獣のように鋭い牙。月光のように白い肌、血の色に光る瞳──。
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「あなたは、誰?」
問いかける私の声は掠れていた。
「もうわかってるだろ?」
甘い声は私の内側で響いた気がした。真っ赤な瞳に見据えられると、身動きがとれなくなる。彼の手が首筋に伸びた。鋭い爪先が柔い皮膚の表面で踊る。
さあ、どこから食べようか。
舌舐めずりする口の端で、白い牙が鈍く光った。
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夢絵「アイス」蔵王と
蔵王「一口もーらいっと!」
「あっ、ちょっと!」
蔵王「お前が食べるの遅いんだって。溶けちゃうだろ?」
「今開けたばっかりだよ。もう、加減して食べてよ」
蔵王「わーかってるって」
「ほんとかなぁ……って一口デカいってば!」
蔵王「えー、ちょっとじゃん」
「どこが!」
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夢絵「オレンジデー」140字SS蔵王
甘酸っぱい柑橘系と仄かに混じる優しい花の香り。甘すぎずさっぱりとした爽やかさが、ぴったりだと思った。それに装飾品より香水の方が、空手に打ち込むこいつの邪魔にならないだろう。
嬉しそうにはにかむを抱き寄せれば、首筋から俺の選んだ香りがする。そのことに、どうしようもなく満たされた。
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