チョコ

「ちょっと時期早くねえ?」
 の手元をちらりと覗きながら、出水はぐるぐる巻きにしていたマフラーを少し乱暴にほどいた。コートともにハンガーポールへ適当に引っかけて、ついでに足下の段ボールからみかんを一つ二つ手に取る。幼馴染が我が物顔で作戦室のソファでくつろいでいる点には、もはやツッコむことはなかった。異議を唱えるのはたいてい唯我だけだし、その唯我はまだ来ていない。太刀川はいつも通りソロランク戦として、柚宇はコートがあるので仮眠室にでもいるのだろう。
「チョコに時期とかなくない? 一年中売ってるし」
「そりゃそーだけど」
 出水はソファにどっかり座り込むと、テーブルにごろごろと転げられた色とりどりの丸い包みをひとつつまみ上げる。これなに味、うーんと赤いやつはたしかミルク、ほーん。返事を聞く前からぺりぺりと銀紙を剥いて、ほーん、のあたりではもう口に投げ込んでいた。聞いた意味ないじゃん、と呆れ顔のを尻目に、出水は「これうめえ」とご機嫌である。まったくマイペースだなあと肩をすくめつつ、勝手に人の作戦室に入り浸っている身ではあるので、は深く言及しないまま自分も新しくチョコレートに手を伸ばした。
「てかどーしたんだよ、これ」
「夏か秋くらいにさあ、なんかできたじゃん、おっきいスーパーみたいなやつ。今クリスマスフェアやってて、安かったんだって」
「あー、あれ。そういやまた一緒に行ったんだっけ」
「そうそう」
 アメリカ発祥の超大型業務スーパーが三門市の近隣にできたのは、つい最近のことだ。会員制で年会費もそれなりのお値段だが、目新しさゆえか今のところ盛況しているらしい。出水の母に連れられて行くたび、の母は毎度のように会員登録しようかしまいかと悩んでいる。
「もういい加減、お母さんも会員になっちゃえばいいのにさ。おばさんにも悪いし」
「うちが好きで連れ出してんだし、それは別にいいんじゃね」
「そっかなあ」
 うーん、と眉間にしわを寄せたまま、は手持ち無沙汰にみかんをにぎにぎと揉み始める。母が家計を気にしていることはも分かっている。父がいない今、稼ぎ頭はボーダーのA級隊員であるだ。娘に負担をかけまいと思っているのだろうか、でもスーパーなんだし、買うのは家族みんなが食べるようなものばかりだし。気にしなくて良いのに。お母さんだって行くたび楽しそうなんだから。別にいいのになあ。いつの間にか考えていたことがそのまま唇から漏れていたらしく、そっくりそのまま言えばいーじゃん、と何個目かわからぬチョコをつまみながら出水が応じた。
「そうなんだけどさ。なんかね、お金に関してわたしが言うと、うーん、微妙な空気なんだよなあ」
「じゃああれだ、ほら、クリスマスプレゼントってことで、丸め込む」
「おお……。それは名案かも」
「だろ」
 お手柄とばかりににやりと笑う出水に、なんだか子どもの頃のいたずらを思い出して、もくすくすと声を忍ばせて笑う。親を丸め込もうという作戦会議なのだから、中身は置いておいてもいたずらと大差ないのかもしれなかった。




Up:2023.12.02
お題 : 推しアドベントカレンダー/02.チョコ
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