落日に、ならんだふたり
寂れた空き地に積み上がったトリオン兵の残骸が、西日を浴びて輝いている。最後の一体が動きを止めたことを確認すると、はぐっと伸びをした。トリオンでつくられた戦闘体では肩凝りとも無縁であるが、一仕事終えた後に身体を伸ばすと気分がすっきりするのだ。ひとまずトリオン兵の反応はすべて消えたようで、オペレーターからねぎらいの言葉がかけられる。回収部隊が到着するまでは留まるように、というお決まりの言葉にも笑顔で応じながら、はバムスターの背に腰を下ろした。そのまま後ろに倒れ込むと、ちょうどこちらに登ってきていた出水の顔が逆さまに映る。ぱちくりと目を瞬かせた出水は、すぐにいつものからかう調子で笑った。
「なんだよ、もうバテてんのか?」
「違うよ。ちょーっとひとやすみ!」
出水が隣に座っても、は寝転んだまま身を起こそうとしない。出水は背中側に両手を付いて後ろに重心を預けると、軽くの方へ振り向いた。
「すぐに増援来ても知んねーぞ」
「そしたらびゅんって起きるからだいじょーぶ」
「勢いつけすぎて転げ落ちんなよ」
「そんなギャグみたいなことしません~」
はむすっと唇を尖らせると、ごろんと出水と反対の方向に頭を倒した。怒っていますというアピールだ。無論ただのアピールなので、本当に怒っているわけではない。
「はいはい、拗ねんなよちゃん」
「拗ねてな~い」
「それが拗ねてるっつうの」
違うもん、拗ねてる、の犬も食わない応酬が二往復ばかりした時だった。ジジ、と低いノイズがかすかに耳に入る。警報用の屋外拡声器の音。は宣言通りの勢いで身を起こすと、さっと孤月の柄に手をかけた。
――しかし。拡声器から流れ出したのは耳をつんざくアラート音でも、冷静なオペレーターのアナウンスでもない。やわらかなグロッケンシュピールで奏でられる、童謡の「夕焼け小焼け」だった。
「…………あ、あれ?」
「なんだよ、おまえが飛び起きるからおれまで警報かと思ったわ」
「うわ~はずかし! でも公平が増援来るかもって脅かしたんだよ」
「おれのせいかよ」
すっかり警戒を解いたは座り直すと、自分の勘違いがおかくなったのか、肩を揺らしてくすくすと笑い出した。
「も~、なんだ、五時のチャイムかあ。しばらく聞いてなかった気がするな」
「最近はこの時間、本部いること多かったからな。おれも久々に聞いた」
「これ聞いたら帰る時間だったのにねー。……なんか懐かしい」
自然と二人の視線は山間に落ちてゆく夕焼けに吸い寄せられていた。めらめらと燃えるような太陽が、山肌を焦がすように最後の光を投げている。もうチャイムは鳴り止んでしまったのに、あの切なくも暖かなメロディーがいつまでも耳の内側でやさしく響いている気がした。
「久しぶりにお手々つないで帰るか?」
「ふふ、それもいいかも。公平真っ黒なコートだからカラスみたいだしね?」
――おててつないでみなかえろ からすといっしょにかえりましょ
Up:2022.08.06
title by ふたりへのお題ったー
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