ロック葬
「いいなあ、わたしもお葬式はロック葬がいい!」「……はあ?」
テレビを見ている時の幼馴染は、脳味噌と口が直結しているに違いない。出水はそう常々思っていた。デパ地下の食レポが流れれば「おいしそう、わたしも食べたい!」と目を輝かせ、話題の行楽地の特集が始まれば「楽しそう、わたしも行きたい!」とはしゃぐ。
だから、今の発言にだって大した意味はないのだ。頭では理解していても、出水は顔に不機嫌が滲むのを止められなかった。みかんを剥く手を止め、テレビ画面に夢中のの横顔を鋭く睨みつける。
「おまえ、いつからロック歌手になったんだよ」
「なってないし、ならないけど。いいじゃん、ロック葬。楽しそうでしょ?」
「ロックなんか普段聞かねーくせに」
「別にロックじゃなくてもいいもん。好きな音楽かけるの。お葬式用のプレイリスト作っておくから、公平よろしくね」
もはやロック葬ではないだろ。というよりなぜおれがよろしくされるのだ?
疑問をそのまま口にすれば、はあっけらかんと答えた。
「だってわたしの方が先に生まれたんだもん、きっと死ぬのもわたしの方が先でしょ?」
――これはただの一般論で、例え話で、もし宝くじが当たったらとか、もし明日地球が滅亡したらとか、「あり得ない」ことが前提の話だ。分かっている。こんなもの、真剣に受け止めるほうがバカだ。
それと同時に、真剣に受け止めてしまうのがなぜか恐ろしかった。なんの迷いもなく「自分が先に死ぬのだ」と笑う幼馴染がこわかった。しっかり捕まえておかなくては指の間からすり抜けてしまいそうで、強く握れば風船のように破裂して消えてしまいそうで。
出水はおそろしさを吹き飛ばすように、わざとらしく鼻で笑ってみせた。テレビ画面に視線を逸し、なんでもない顔をつくる。
「半年も変わんねえのに、なに言ってんだよ。だいたい、男のほうが平均寿命は短いらしいし?」
早々に計画倒れだな。意地の悪い笑みを片頬に浮かべて、出水はさっさとテレビのチャンネルを変えた。そもそもこんなニュースを流すテレビが悪いのだ。八つ当たり気味にボタンを乱暴に押し続け、ドラマの再放送でようやく手を止める。
「ちょっとお、公平このドラマ好きじゃないって言ってたのに!」
「見たくなったんだよ」
なおも不服の声を上げるを無視して、出水はみかんの筋取りを再開した。
Up:2019.07.02
twitterタグ #存在しない小説の台詞
twitterタグ #存在しない小説の台詞
- Back -