トラブルでラブホに行く

 近場のホテルはどこも満室だらけだった。
 雨に濡れきった体をぶるりと震わせて、は小さくくしゃみする。
 どうしようね。ぽつりと漏らすの唇は心なしか青ざめており、見るからに寒そうだ。
 通りに面した窓ガラスは相変わらず強い雨に晒されている。二人同様にこの雨にやられて飛び込んできたらしいカップルやサラリーマンが、肩を落としてカウンターから出入口に引き返してくるのを視界に捉えながら、出水は短く唸った。
 終電を逃した今、始発までの数時間をいかにして凌ぐかが二人の課題だった。雨さえなければネットカフェやカラオケで時間を潰すことも出来たが、びしょ濡れのこの状態ではそれも難しい。早いところ体を暖めなければ、二人揃って風邪を引いてしまうだろう。
「…………」
 ホテルはどこも満室だらけ。しかし、ひとつだけ選択肢から外していたホテルがあった。夜闇では目を引く華やかな電飾に、幼馴染の意識が向かないように細心の注意を払ってまで遠ざけていたものの――、どうやら、四の五の言っていられないらしい。
 不安げにこちらを見上げるを一瞥して、出水は短く息を吐いた。仕方ない。これは、仕方のないことなのだ。自分に言い聞かせるようにして胸中で唱えながら、出水はバッテリーの切れかかったスマートフォンで検索エンジンを立ち上げると、未成年の二人でも宿泊可能な「ホテル」を探した。

「あのさあ、ここ、ってさあ」
 今まで足を運んだホテルとはどう考えても趣が違うということに、さすがのも気付いていた。出水に押し付けられたパーカーのフードを外しながら、は妙に小洒落た建物を見上げる。雨脚は和らぎつつあるものの、靴の中までぐっしょり濡れるほどの大雨に晒された後ではなんの慰めにもならない。早急に服を乾かし体を温める必要がある。それが出来るなら、この際、場所を選んではいられなかった。
 それはわかっている。わかっている、けれど。
「ネットで予約取れたって言ってたけど、その、大丈夫なの」
「なにが」
「だって、……未成年だよ、わたしたち」
「ちゃんと平気なとこだって。いいから行くぞ。このままじゃマジで風邪引くって」
 出水は立ち止まったの手を握ると、問答無用とでも言わんばかりに歩を進めた。そろそろ背筋に悪寒を感じ始めていたとしても、宿泊場所をはやく決めたいらしい出水に異論はない。しかし場所が場所である。非常時とはいえ幼馴染と立ち入って良いものだろうか。親に知れたら一体なんと言われるか、そもそも本当に問題は無いのだろうか。
「ほ、ほんとに、あの」
「大丈夫だって言ってんだろ」
 半ば出水に引きずられながら、は平然とラブホテルに突入していく幼馴染の横顔を途方に暮れた顔で見つめた。




Up:2019.07.02
twitterタグ #ふとしたトラブルでラブホテルに泊まることになってしまった夢カプ
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