「このままどっか行っちゃおうか」
 車窓の外に目を向けて、は呟くように言った。夏の強い日差しが窓枠に切り取られ、コントラストの強い影がの横顔に落ちる。
 どこかって、どこに。
 三門市を東西に走るこのローカル線では、終点まで行っても県内だ。行けるところなんてたかが知れている。――けれど。
「……いいよ」
 出水の口をついて出たのは、考えていたものと真逆の言葉だった。
 なにバカなこと言ってんだよ、すぐに降りて乗り直せば、次の授業には間に合うだろ。
 出水の冷静な部分はそう言っている。なのに、心臓の裏側のあたりがざわめいて仕方なかった。濃い影の落ちた彼女の横顔が、そのままぱくりと影に飲み込まれてしまう気がして。
「ほんとう?」
 振り返ったの顔が、逆光で見えない。凪のように静かな声からは感情が読み取れなくて、出水は思わずの手を取った。
「ああ。どこにだって行ってやる」
 おまえとなら、どこでも。だからそばにいろ。おれがそばにいる。
 口にこそしなかった、その代わりに、出水はの手を強く強く握りしめた。

センチメンタルエスケープ




Up:2019.06.14
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